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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)2540号 判決 1981年2月24日

昭和五四年(ワ)第一六七〇号事件原告、同年(ワ)第二五四〇号事件被告、シギタ印刷株式会社補助参加人(以下、原告という。) 株式会社リース福徳

右代表者代表取締役 西澤一彦

右訴訟代理人弁護士 河合伸一

同 谷口進

昭和五四年(ワ)第一六七〇号事件被告、同年(ワ)第二五四〇号事件原告(以下、被告という。) 東洋インキ製造株式会社

右代表者代表取締役 永島豊次郎

右訴訟代理人弁護士 坂東宏

昭和五四年(ワ)第二五四〇号事件被告(以下、被告という。) シギタ印刷株式会社

右代表者代表取締役 鷹井利夫

主文

一、被告東洋インキ製造株式会社が被告シギタ印刷株式会社に対する大阪地方裁判所昭和五四年(ヨ)第八四五号動産仮処分申請事件の仮処分決定正本にもとづき同年三月九日別紙物件目録記載の物件につきなした仮処分執行は、これを許さない。

二、被告東洋インキ製造株式会社の請求を棄却する。

三、訴訟費用は全部被告東洋インキ製造株式会社の負担とする。

四、本件(昭和五四年(ワ)第一六七〇号事件)について当裁判所が昭和五四年三月二六日にした強制執行取消決定は、これを認可する。

五、この判決は前項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、昭和五四年(ワ)第一六七〇号事件

1.原告

主文第一、第三項同旨の判決。

2.被告東洋インキ製造株式会社

(一)原告の請求を棄却する。

(二)訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

二、昭和五四年(ワ)第二五四〇号事件

1.被告東洋インキ製造株式会社

(一)被告シギタ印刷株式会社育、被告東洋インキ製造株式会社に対し、別紙物件目録記載の物件を引渡し、かつ昭和五四年六月一九日から右物件引渡済まで一か月金二三万円の割合による金員を支払え。

(二)訴訟費用は被告シギタ印刷株式会社の負担とする。

との判決および仮執行の宣言。

2.被告シギタ印刷株式会社

主文第二、第三項同旨の判決。

第二、原告の請求原因(昭和五四年(ワ)第一六七〇号)

一、被告東洋インキ製造株式会社(以下、被告東洋インキという。)は、昭和五四年三月九日、被告シギタ印刷株式会社(以下、被告シギタ印刷という。)との間の大阪地方裁判所同年(ヨ)第八四五号動産仮処分申請事件の仮処分決定正本にもとづいて、別紙物件目録記載の物件(以下、本件物件という。)につき仮処分執行をした。

二、しかし、本件物件は原告の所有である。すなわち、ニッサン印刷紙業株式会社(以下、ニッサン印刷という。)は、昭和五三年八月中旬、被告東洋インキからその所有の本件物件を代金一〇〇〇万円で買受けて所有権を取得し、原告は、同年九月五日、ニッサン印刷から本件物件を代金一一五〇万円で買受けて所有権を取得し、引渡を受けた。

三、仮にニッサン印刷が本件物件の所有権を有していなかったとしても、原告は、昭和五三年九月五日、ニッサン印刷から本件物件を買受けるに際し、ニッサン印刷に対して領収書等の提示を求め、ニッサン印刷の所持する見積書、領収書の記載を確認し、本件物件の売買代金が被告東洋インキに支払われ、ニッサン印刷が本件物件の所有権を取得したものと信じてこれを買受け、その引渡を受けたものであって、ニッサン印刷所有と信じたことについて過失はなかったから、本件物件の所有権を即時取得したものである。

四、よって、原告は、被告東洋インキに対し、本件物件につきなされた仮処分執行の排除を求める。

第三、被告東洋インキの認否および主張

一、請求原因一の事実は認める。同二の事実中被告東洋インキが本件物件を所有し、昭和五三年八月中旬ニッサン印刷に本件物件を売渡したことは認めるが、その余の事実は否認する。同三の事実は否認する。

二、ニッサン印刷は、本件物件の所有権を取得していない。

その事情は次のとおりである。

1.被告東洋インキは、昭和五三年七月二八日、株式会社東京カツラ(以下、東京カツラという。)からその所有する別紙物件目録(一)記載の物件(以下、本体部分という。)を買受け所有権を取得した。

2.被告東洋インキは、昭和五二年一〇月、日昭電気株式会社(以下、日昭電気という。)から所有する別紙物件目録(二)記載の物件(以下、附属部品という。)を買受け所有していた。

3.被告東洋インキは、昭和五三年八月一四日、ニッサン印刷との間で、同被告がニッサン印刷に対して右本体部分と附属部品を一体とした本件物件を他の三台の機械とともに代金一六八一万四五〇八円で売渡すこと、代金は同年九月から昭和五四年五月まで毎月二日に一六八万二〇〇〇円づつ、同年六月二日に一六七万六五〇八円を支払うこと、引渡日は昭和五三年九月中旬、引渡場所は買主の指定工場とすること、代金完済まで本件物件の所有権は売主に留保すること、買主が代金支払を怠ったときは当然に期限の利益を失い、売主は催告なくして契約を解除できることとの売買契約を締結した。

4.被告東洋インキは、ニッサン印刷の指示により、昭和五三年九月三〇日、東京カツラから本件物件の引渡を受け、検収を完了して、同日、被告シギタ印刷の工場に納入してこれを引渡した。

5.ところが、ニッサン印刷は、被告東洋インキに対し、昭和五四年一月二日までに八四一万円を支払ったが、同年二月二日以降の支払を怠ったので、同被告は、同年三月八日到達の内容証明郵便でニッサン印刷に対し、右売買契約を解除する旨の意思表示をした。

三、原告が確認したという見積書には支払条件別途協議との記載があり、本件物件の代金が約一〇〇〇万円もするものであるから、一括払はまれで、分割払が普通であり、分割払の場合は代金完済まで所有権は売主に留保されることは一般の取引慣行である。原告は、ニッサン印刷に被告東洋インキとの売買契約書の提示を求めれば、分割払、売主の所有権留保の約定がなされていることが容易にわかった筈であるし、領収書をみせられたときにもそれが現金又は小切手で一括払されたものか、手形等で支払われたものかはニッサン印刷に問合わせればわかることである。また原告は、本件物件を購入するに際しては、所有権の帰属を十分に調査すべきで、ニッサン印刷が被告東洋インキから本件物件を買入れたことを知っていたのであるから、同被告に問合わせるべきであった。しかるに原告は、これらの調査、確認をなすべき注意義務を怠った過失があるから、即時取得は成立しない。

第四、被告東洋インキの請求原因(昭和五四年(ワ)第二五四〇号)

一、被告東洋インキは、本件物件を所有している。その所有権取得の経緯は前記第三、二1、2のとおりである。

二、被告シギタ印刷は、本件物件を占有している。その占有に至る経緯は前記第三、二3ないし5のとおりである。

三、本件物件の使用料は一か月二三万円が相当である。

四、よって、被告東洋インキは、被告シギタ印刷に対し、所有権にもとづき本件物件の引渡および本件訴状(昭和五四年(ワ)第二四五〇号)送達の日の翌日以後である昭和五四年六月一九日から本件物件引渡済まで一か月金二三万円の割合による賃料相当の損害金の支払を求める。

第五、被告シギタ印刷補助参加人(原告)の認否および主張

一、請求原因一の事実中被告東洋インキがもと本件物件を所有していたことは認めるが、その余の事実は不知、同二の事実中被告東洋インキが本件物件を他の三台の機械とともにニッサン印刷に代金一六八一万四五〇八円で売渡したこと、本件物件が被告シギタ印刷の工場に納入され、同被告がこれを占有していることは認めるが、その余の事実は不知。同三の事実は否認する。

二、本件物件は、第二、二、三のとおり、原告が所有権を取得したものであり、被告シギタ印刷は、昭和五三年九月五日、原告から本件物件を賃借し、同月中ころその引渡を受けたものである。

第六、被告シギタ補助参加人(原告)の主張に対する被告東洋インキの認否および反論

前記第三、一ないし三のとおりである。

第七、証拠<省略>

理由

第一、原告の被告東洋インキに対する請求について

一、被告東洋インキは、昭和五四年三月九日、被告シギタ印刷との間の大阪地方裁判所同年(ヨ)第八四五号動産仮処分申請事件の仮処分決定正本にもとづいて、本件物件につき仮処分執行をしたことは当事者間に争いがない。

二、まず、原告の売買による本件物件の所有権取得の点について判断する。

被告東洋インキが本件物件を所有していたこと、ニッサン印刷が昭和五三年八月中旬、被告東洋インキから本件物件を買受けたことは当事者間に争いがない。

<証拠>を総合すると、原告は、昭和五三年九月五日、ニッサン印刷から本件物件を代金一一五〇万円で買受けたこと、被告東洋インキは、同年八月一四日、ニッサン印刷に対して本件物件を他の三台の機械とともに代金一六八一万四五〇八円で売渡したが、その際、ニッサン印刷との間で、代金は同年九月から昭和五四年六月まで毎月二日限り一六八万二〇〇〇円(但し、最終回は一六七万六五〇八円)づつ一〇回に分割して支払うこと、代金完済まで本件物件等の所有権は被告東洋インキに留保し、代金完済のときにニッサン印刷にその所有権を移転すること、ニッサン印刷が代金支払を怠ったときは当然に期限の利益を失い、被告東洋インキは催告なくして売買契約を解除できることとの契約を締結したこと、ニッサン印刷は、昭和五四年一月二日までに右代金中八四一万円を支払ったが、同年二月二日以降の割賦金の支払をしなかったので、被告東洋インキは、同年三月七日、内容証明郵便で、ニッサン印刷に対し、右売買契約を解除する旨の意思表示をし、右書面は同月八日、ニッサン印刷に到達したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によると、被告東洋インキとニッサン印刷間の本件物件の売買契約においては代金完済まで本件物件の所有権を被告東洋インキに留保する旨の約定がなされており、ニッサン印刷は右代金を完済しなかったのであるから、本件物件の所有権はニッサン印刷に移転せず、依然被告東洋インキに帰属していたものであり、したがって、ニッサン印刷から本件物件を買受けた原告は、本件物件の所有権を取得しえないものといわなければならない。

三、そこで、原告の即時取得の主張について判断する。

<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

1.本件物件のうち本体部分は株式会社が貫ローラ製作所の製造にかかるもので、東京カツラが所有していた。被告東洋インキは、印刷機械等の販売を業とする会社であるが、昭和五三年七月末ころ、東京カツラから本体部分を代金七四〇万円で買受け、同年九月二五日ころ、東京カツラに対し、右代金支払のため金額七四〇万円の約束手形を交付し、右手形は決済された。本件物件のうち付属部品はもと日昭電気の所有であったが、被告東洋インキは、昭和五二年一〇月二一日ころ日昭電気から付属部品を代金一六五万一〇〇〇円で買受けた。本件物件のうち本体部分は右売買当時坂下鉄工所内に保管されており、被告東洋インキは、右買受後同鉄工所内において本体部分と付属部品を一体とする作業をした。

2.被告東洋インキは、昭和五三年七月二八日ころ、ニッサン印刷から本件物件ほか三台の機械の買受注文を受け、同年八月一四日、これを販売したが、その際、ニッサン印刷との間で、代金は一六八一万四五〇八円とし、同年九月から昭和五四年六月まで毎月二日限り一六八万二〇〇〇円(但し、最終回は一六七万六五〇八円)づつ一〇回に分割して支払うこととし、ニッサン印刷は同年八月二〇日に被告東洋インキに対し、右代金支払のため、右分割金を額面とし、支払日を満期とする約束手形一〇通を一括して振出交付すること、納期は同年九月中旬とし、ニッサン印刷指定工場内に持込み試験運転後に引渡すこと、代金完済まで所有権は被告東洋インキに留保し、その間ニッサン印刷は本件物件等を他に譲渡、転貸、質入し、他人に使用させたりしないこととの約定をし、その旨の売買契約書を取り交わした。被告東洋インキの担当者倉林哲雄は、ニッサン印刷の代表者脇邦男から右契約に際して、本件物件の納入場所を被告シギタ印刷工場内としてほしい旨の依頼を受け、被告シギタ印刷がニッサン印刷とは別法人であることを知ってはいたが、被告シギタ印刷はニッサン印刷の下請会社であると聞かされていたところから、代金完済前にニッサン印刷から被告シギタ印刷に本件物件を貸与することについて了承して右納入場所に関する依頼を承諾した。ニッサン印刷は、同年八月二五日ころ、被告東洋インキに対し、右代金支払のため、右約定どおりの約束手形一〇通を振出交付した。

3.原告は、昭和五三年七月、ラベルの印刷、販売等を業とするニッサン印刷から、被告シギタ印刷が本件物件を賃借(リース契約)によって使用したいというのでニッサン印刷が被告東洋インキから買受ける予定の本件物件を原告において買上げて被告シギタ印刷に賃貸してほしい旨の申入を受けたので、原告の担当者南秀は、同年八月一八日ころ、被告シギタ印刷の代表者鷹井利夫にいわゆるリース契約の説明をし、同月二八日ころ、ニッサン印刷から本件物件の代金見積書を提出させた。原告の担当者南秀は、同月末ころ、ニッサン印刷の代表者脇邦男から、被告東洋インキ作成ニッサン印刷宛、同年七月五日付本件物件ほか三台の機械代金見積書と同年八月二五日付領収証を提示され、代金一六八一万四五〇八円を同日受領した旨の右領収証の記載(手形で受領した旨の記載はなかった。)により、ニッサン印刷が被告東洋インキに対して本件物件の代金全額を支払い、本件物件の所有権を取得したものと判断したので、原告は、同年九月五日、ニッサン印刷との間で、原告がニッサン印刷から本件物件を代金一一五〇万円で買受ける旨の売買契約を締結し、同日、ニッサン印刷に対し、右代金支払のため金額一一五〇万円の約束手形を振出交付し、右手形は同年一二月五日に決済された。原告の担当者南秀は、右売買契約に際して、被告東洋インキに対してニッサン印刷の本件物件の所有権取得の有無について特に照会するなど調査確認をしなかった。

4.被告シギタ印刷は、ラベル印刷を業とする会社で、ニッサン印刷から総受注量の約二〇パーセントを占めるラベル印刷の注文を受けていたものであるが、昭和五三年六月ころ、ニッサン印刷から、ニッサン印刷が受注したラベル印刷を下請させるからその印刷に利用するため本件物件を原告から賃借して使用してほしい旨を依頼した。そこで被告シギタ印刷代表者鷹井利夫は、同年七月末ころ、坂下鉄工所に存した本件物件を確認し、原告と交渉するに至った。原告は、同年九月五日、被告シギタ印刷との間で、原告が被告シギタ印刷に対して本件物件を同日から昭和五九年九月四日まで賃貸し、賃料は毎月二三万円(但し、第一回は一一五万円)とすること、本件物件は同日大阪市城東区中央一丁目六番二九号所在の被告シギタ印刷の工場内に納入して引渡すこととの賃貸借契約を締結した。

5.本件物件の被告シギタ印刷への納入は被告シギタ印刷の希望によって延期され、その後被告シギタ印刷から直接坂下鉄工所に納入を指示した結果、昭和五三年九月一六日ころ、坂下鉄工所から直接運送会社に依頼されて被告シギタ印刷の右工場内に納入された。原告の担当者は、右納入後被告シギタ印刷より本件物件の搬入を知らさせて同月一八日ころ、被告シギタ印刷の工場に赴き、本件物件がニッサン印刷との売買契約および被告シギタ印刷との右賃貸借契約にもとづいて直接被告シギタ印刷に引渡されたことを確認した。他方、被告東洋インキの担当者は、同月三〇日ころ、被告シギタ印刷の工場に赴いて本件物件の試運転の結果に問題がないことを確めて、同日ニッサン印刷との売買契約の履行としての引渡が終了したことを確認した。

以上の事実が認められ、右認定を左右できる証拠はない。

右事実によれば、原告は、本件物件がニッサン印刷の所有であると信じて、昭和五三年九月五日、ニッサン印刷からこれを買受け、同月一六日ころ、ニッサン印刷から引渡を受けた(本件物件は、東京カツラから被告東洋インキへ、被告東洋インキからニッサン印刷へ、ニッサン印刷から原告へ順次譲渡され、原告から被告シギタ印刷に賃貸されたものであるが、東京カツラが保管場所としていた坂下鉄工所から直接被告シギタ印刷に納入されたことにより、右各当事者間の契約の履行としての引渡が同時に行われたとみるのが相当である。)ものである。

被告東洋インキは、原告にはニッサン印刷が本件物件の所有権を有すると信じたことにつき過失がある旨主張する。

しかし、右事実に前記二で認定した事実をも合わせ考えると、原告の担当者南秀は、ニッサン印刷から本件物件を買受けるに際しては、ニッサン印刷よりニッサン印刷への売主である被告東洋インキ作成にかかる本件物件等の代金の見積書と代金全額を受領した旨の領収証の提示を受け、その記載内容によってニッサン印刷が被告東洋インキから本件物件を買受けてその代金を完済しているものと信じたのである(右領収証には手形による支払である旨の記載はなかったから、代金は分割払ではなく、一括払であると考えたことは無理からぬことである。)から、もともと、ニッサン印刷と原告との売買が前記の如く、東京カツラから被告東洋インキへ、被告東洋インキからニッサン印刷へ、ニッサン印刷から原告へと順次譲渡され、原告からさらに被告シギタに賃貸されるという転々とした取引の一環として行われたことや、被告東洋インキから東京カツラへの代金支払も、原告からニッサン印刷への代金支払も手形による一括払の方法でなされており、ニッサン印刷から被告東洋インキへの代金支払は一〇回の分割払であったとはいえ、その支払は一〇通の手形の一括交付の方法でなされ、その手形も昭和五四年一月二日満期の分まで五回にわたり計八四一万円が正常に決済されていたのであって、しかも、被告東洋インキは本件物件の所有権留保の特約をしていたけれども、その引渡場所をニッサン印刷とは別会社の被告シギタ印刷工場内とし、代金完済前における被告シギタ印刷の使用を認めたのに、引渡に際して所有権留保の表示を何ら行わなかったこと(被告東洋インキの所有権留保はニッサン印刷に対する代金債権の担保の実質を有するものであるが、その公示方法は極めて不完全なものであるから、ニッサン印刷以外の第三者の使用を許していた本件のような場合に、ニッサン印刷から譲渡を受けた第三者に対して容易に対抗力を認めることは取引の安全を著しく害することになって相当ではないと思われる。)、その他ニッサン印刷が所有権を取得していることに疑念を抱かせるような状況も存しなかったことなどの事情に鑑みると、本件物件が相当高額の機械であったことや代金分割払の場合には所有権留保の特約がなされることが通例で南秀が右見積書と領収証の確認のうえさらにニッサン印刷に対する売主の被告東洋インキに対してニッサン印刷の所有権の有無につき調査確認の措置を講ずるまでの注意義務はなかったというべきであって、原告の担当者にはニッサン印刷が本件物件の所有権を有すると信じたことに過失があったと認めることはできないのである。

そうすると、原告は、昭和五三年九月一六日ころ、即時取得により、本件物件の所有権を取得したものというべきである。

四、したがって、原告は、被告東洋インキに対し、所有権にもとづき本件物件につきなされた仮処分執行の排除を求めうるものである。

第二、被告東洋インキの被告シギタ印刷に対する請求について

一、被告東洋インキは、もと本件物件を所有していたこと、被告シギタ印刷は、本件物件を占有していることは当事者間に争いがない。

二、原告が昭和五三年九月五日ニッサン印刷から本件物件を買受け、同月一六日ころその引渡を受けて即時取得により本件物件の所有権を取得したことは前記第一、二、三で判示したとおりであるから、被告東洋インキは、本件物件の所有権を失ったものというべきである。

そうすると、被告東洋インキの被告シギタ印刷に対する請求は、被告東洋インキのその余の主張につき判断するまでもなく、理由がない。

第三、結論

よって、原告の被告東洋インキに対する請求を認容し、被告東洋インキの被告シギタ印刷に対する請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九四条、強制執行停止決定の認可およびその仮執行宣言につき民事執行法第三八条第四項、第三七条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山本矩夫)

<以下省略>

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